八王子平和の家では、『心のケア』の考え方を大切にしています。
『心のケア』はみんなにとって必要なものですが、ここでは、対応が難しいとされる自閉症の人の例を中心に、以下の項目で、簡単に『心のケア』について説明します。
八王子平和の家では、『心のケア』の視点を大切にしています。
『心のケア』は、「障害がある」から必要なのではありません。
『心のケア』や『癒し』は、ストレス状態にある多くの人に必要です。障害があると、現在の社会の中では不便なことも多く、生きていくのが大変です。
理解がないことにより、自分を否定される体験をたくさん重ねてきた人も多くいます。
だからこそ、自分自身を認め、自信を持って自分らしく生きていくために、『心のケア』がとても大切だと考えます。
ここでは、支援者が対応に困ることも多い、自閉症の利用者の例を中心に、八王子平和の家の『心のケア』について説明します。
よく、何度も同じ質問(確認)をする自閉症の利用者がいます。
支援者が丁寧に説明しても、わかりやすい言い方を工夫しても、質問は繰り返されます。
応えても応えても質問が繰り返されると、支援者の中に空しい気持ちがわいてきます。その空しさを我慢すると、空しさはイライラに変わります。
さらに我慢すると腹がたってきます。
支援者には手助けをしたい気持ちがあるのに、利用者にとって何が本当の助けになるのかがわからないし、気持ちを感じとることができない。
気持ちが行き交う実感のない関係に、支援者は元気を失い、時にはイライラを相手にぶつけたくなります。利用者の気持ちが見えないと、利用者にやさしい気持ちを持てなくなるのです。
『心のケア』では、利用者と支援者が気持ちの交流を深めることで、お互いが理解しあい、意味のある「やり-とり」が深まり、いい関係になることをめざします。
いい関係は、いい支援につながります。相手に対してやさしい気持ちをもつことができ、どんな支援が必要なのかも見えやすくなるからです。利用者も、支援を受け取りやすくなり、日常のあらゆる面で「やり-とり」がうまくいくようになります。
いい関係になるためには、支援者自身の中で起こっていることに目を向けることが大切です。心が通じて「いい感じ」とか、同じ問いかけが繰り返された時のように「困った」とか「空しい」とか、自分の感覚を大事にするのです。対応に困ったり、空しいと感じるのは、「やり-とり」がうまくいかず、すれちがい、噛み合わない状態だからです。
それは、支援者が利用者の行動や言葉に惑わされて、本当の思いに気づいていないことで起こります。
利用者には、背景にある辛さや苦しさに対して、気を紛らわしたり、我慢をするための行動や言動も多くみられます。
表向きの行動や言葉ではなく、利用者の内面にある思いに目を向け、共感し、利用者の気持ちが楽になったり、安心できるように働きかけるものが、『心のケア』だといえます。
気持ちをわかってもらうことができ、「やり-とり」がうまくいくと、利用者は安心して自分を表現できるようになっていきます。
支援者にとっては、「よくわからない人」から、「わかりやすい人」と感じられるようになっていきます。
そして、利用者の「理解できなかった行動」が、「気持ちを感じられる行動」になっていきます。
お互いの相乗効果で、空しい関わりがどんどん意味のある「やり-とり」に変わり、気持ちの通い合う、いい関係になっていきます。
私たちは、「問題」とされている行動をなくすことを目的に『心のケア』を行うわけではありません。
しかし、「問題」とされている行動は、したくてしているわけではないことが多く、辛さや不安の表れであるため、心の交流が深まり、わかってくれる支援者に支えられると、強い行動障害のあった利用者が、人への信頼を深め、人に支えや助けを求めることがうまくなり、行動障害自体が軽くなるなどの変化がみられることもよくあります。
自閉症の利用者の言葉や行動に惑わされず、空しくないコミュニケ-ションをするためには、体を通して直接感じ取る「やり-とり」の技術が必要です。
言葉や行動からは気持ちが見えにくくても、体にしっかり関わると、体の出す反応から気持ちを受け取ることができるのです。
体はとても正直で、例えばビックリしたとき、必ず体には何らかの緊張があり、それを止めることはできません。
しかし言葉では、「全然驚かなかった」と言うことができてしまいます。利用者は、気持ちとはうらはらな行動をしたり、辛いのに笑ったり、何かに執着することで不安な気持ちを解消しようとしたり…、その人なりのやり方で自分の気持ちに折り合いをつけつつも、気持ちを収められずに限界ギリギリまで辛い状態となり、本当は困っていることもあります。
私たちが、体の緊張や緩みなどを感じ取りながら、利用者の本当の気持ちを受け止め、応えることができれば、意味のある深い「やり-とり」ができるようになります。
体を通して相手と「やり-とり」する技術は、本を読んでも泳げるようにはならないのと同じで、理論を知るだけではなく、繰り返し練習する中で習得します。
練習をすれば誰でもできるようになります。実際に体につきあいながら、気持ちを感じ取っていくと、日常的ないろいろな行動が一つの表現として見えるようになります。
たとえば、何度も繰り返し同じことを聞いてくるときは、たいてい何か不安になっている時であるとか、衝動的に物を投げるなどの行動は、やりたくないのにやらずにはいられなかったもので、本人は止めてもらいたいと思っているものだとか…。
そして、利用者のさまざまな行動の根っこは共通していて、多くの場合、自分の存在に自信がない(自分の存在に価値を見出だせない)ことからくることだと気づかされます。
だから私たちは、自分は価値ある大切な存在だと利用者自身が感じられるようになることをめざして支援をしています。
体にしっかり関わることで、気持ちが見えたら、どう対応すればいいかがわかってきます。
パニックは我慢していた気持ちの爆発ですから、そうせざるをえない不安、イライラ、怒りなどの気持ちを共感的に受けとめながら、暴れるなどの行動は、しっかり止めます。
この時の注意として、本人はもちろん支援者も傷つくことが絶対にないように。誰かが傷つくと、利用者は、そのことでまた自分を責めて苦しくなり、落ち着けなくなってしまいます。
そのためにも支援者の人数の確保が必要になります。そして少し時間はかかりますが(初回で1~2時間)、落ち着くまでつきあいます。
ちょっと大変なことだと感じるかもしれませんが、安全で、段々と日常的に落ち着けるようになる方法だといえます。
とても辛い時、多くの人は、誰かにその辛さを充分に聞いてもらったり、思う存分泣くことで、新しい一歩を踏み出せるのでしょう。でも、自閉症の利用者の中には、自分の気持ちを人に伝えるのが苦手だったり、泣くことができない人もたくさんいます。
泣くかわりに暴れているのだと思って、暴れに(体の泣きに)とことんつきあってあげてください。
しばらくの期間は辛さを吐き出すことにつきあって、落ち着いてきたら、辛さを溜め込まないで少しずつ小出しにする方法や、じょうずな伝え方を知ってもらいます。
そうすると、例えば支援者との関わりがうまくできずに暴力的な行為を繰り返していた自閉症の利用者が、ドアを叩いて職員を呼ぶなどの人と関わる新しい方法を身につけ、暴力をほとんどしなくなるなどの変化がみられるようになります。
私たちは、『心のケア』の考え方を支援に取り入れることで、空しい支援から、利用者に向き合う実感のある支援に変わっていくことを、体験してきました。
これからも、利用者と支援者のいい関係づくりを大切にしながら、利用者一人ひとりの思いをしっかりと受け止めることができるよう、『心のケア』を支援の中心に置いていきたいと思っています。
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